森のくまさん

あるひ もりの なか
くまさんに であった
はな さく もりの みち
くまさんに であった


「任務・・・?」
「そう!任務。依頼人は僕だよ」
ニコッと人の良さそうな笑みをする、本当はとんでもなく腹黒い師を見上げて、内心ため息をつく。
この人偶にとんでもない事言い出すんだよな。
「なんですか?またクシナさん誘拐ならしませんよ。三代目にこっ酷く怒られたじゃないですか」
「ちょっ!カカシくん!人を誘拐犯のように言わないでよ。あれは愛の逃避行!例えるならロミオとジュリエットだよ!」
「・・・クシナさん泣き叫んでましたけど」
「嬉し泣きってヤツかなぁ」
テヘペロと舌を出す師にやれやれと思いながらも向き合った。どうせ彼の言うことには逆らえやしないのだから。
「で、なんですか?個人的な任務って」
「僕の知り合いの息子さんが行方不明になっちゃって。一緒に探して欲しいんだ」
「・・・はぁ」
何だ迷子か。Dランクを予想し、くだらないなと思った。
「カカシくんには『魔の森』を見てきてほしいんだけど」
『魔の森』とは、里の外れにひっそりとある森の通称だ。その森には古くから魔のモノがおり、中に入ることを禁じられた。魔のモノは不思議な力を持ち、束になれば脅威となる。しかし、彼らは森の外には出ようとせず近づかなければ危害は加えない。だからこそ『魔の森』には近づかないよう知れ渡っていた。
特に大人は、魔のモノに見つかれば即座に殺される。何かあった場合、ーー例えばどうしてもその森にしかない植物を採取する時などの場合子どもを使うのが暗黙の了解だった。魔のモノは子どもは殺さない。最も殺さないだけだが。キチンと手順を踏めば子どもなら入るのを許される。
だからこそオレに白羽の矢がたったのだろう。はた迷惑な話だ。
「・・・・・・分かりました」
それ以外オレに発せられる言葉はない。そう言うと分かってた癖に「本当っ!さっすがカカシくん」とニコニコされた。
「特に今の時期キュ魔がいるから気をつけてね」
「え?クマ?」
「キュ魔だよ!知らないの?とっても凶悪な魔のモノだからね!人を惑わせる不思議な力を持ってるからくれぐれも気をつけてね」
「はいはい」
これ以上聞いたところでやることは変わらないだろう。ため息を小さくすると足早にその場から離れた。


◇◇◇


魔の森に入るのは初めてだった。最も任務でこれ以上厄介なところを飛び回っているので特に恐怖などなかった。
教えてもらった入る手順、一礼をし、頭から牛乳をかぶった。牛乳の臭いは魔のモノが最も苦手な臭いらしくその臭いを漂わせておけば襲われることはないらしい。
(臭くなるからヤなんだけど)
ビッショリと濡れた感触がまるで血を浴びた感覚と似ており不快に眉を潜めた。
早く終わらせよう。
そういえば行方不明の子どもの特徴や名前すら聞いていなかったことに気がつく。まあこんなところ入るようなバカはいないだろうから死体が見つかればそれが本人だろうとアバウトなことを思っていると、前方から気配がした。
クナイを取り出し、慎重に前へ進む。
茂みから様子を伺うと、ピンク色の塊がモゾモゾと動いている。
生物の色ではないショッキングピンク色の毛並みにアレが先生が言っていたキュ魔だと確信する。
魔のモノには近づいてはいけない。それが暗黙のルールだ。
ゆっくりとその場を去ろうとすると、キュ魔がこちらを向いた。気配は完璧に消していた。つまりこちらに気づいたのは野生のカンなのだろう。
黒い瞳が、こちらをゆっくりと見た。


目が合った瞬間、オレは動けなくなった。


ピンク色の毛並みはまるで着ぐるみのように纏い、顔はまさしく人間だった。

だが、タダの人間ではない。

つぶらな瞳、林檎のようなほっぺ、プルプルの唇。鼻に傷があったが、それすら魅力に感じた。まるでオレの理想のような愛くるしい天使のような顔に。

正しく、射殺された。


オレはその場から動けなかった。
じっと、ただその生物を網膜に焼き付けた。
こんな。
こんな、愛らしい生物がこの世に存在するとは・・・っ!
まさかこれがキュ魔の不思議な力なのか!オレの理想とも呼べる幻想を見させ、人を惑わせる混乱させるつもりか・・・っ!
確かにコイツに襲われたら(色んな意味で)オレはヤられてしまうだろう。
くっ、さすがキュ魔・・・っ!凶悪だ。
ジリジリと嫌な汗をかきながら、しかし一瞬も目を離せなかった。
離した瞬間、オレはーー・・・
と、キュ魔がゆっくりとこちらに向かってくる。
ビクッと体は震えてしまったが、だが目は動かせなかった。
ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。
動け。
逃げるんだ。
これよりも獰猛で邪悪なモノなど散々倒してきただろう。ムリだと悟ったら逃げてきただろう。思い出せ。足を動かすんだ。
早くしないと。
早くしないと。
捕まる。
捕まってしまう。
ダラダラと嫌な汗をかいているのを感じながら、それでも足は動かなかった。
早く、早くと気だけが焦る。
逃げろ。
逃げろ。
キュ魔は触れるところまで近づくとピタッと止まった。
今のうちだ。
フッと気が緩んだ。
瞬間ーー・・・。

「がおっ」

ソレは、にっこりと笑った。







風を横切りながら、全速力で森を走り抜ける。
頭は真っ白で、ようやく機能した足だけが無心に駆ける。
逃げないと。
逃げないと、アレに捕まってしまう。
心臓が痛い。
痛くて痛くて破裂しそうだ。
きっとキュ魔の呪いにかかってしまったのだ。
あの笑顔が頭から離れない。
怖かった。
あの瞬間。

オレは、
何もかも手放してアレだけを求めてしまいそうになっていた。

制御できない思考が、怖かった。
そんなこと今まで一度もなかったのに。
痛む胸を押さえる。今もドクドクと脈を打ち、全身に響いている。
そこには空っぽだったはずだ。誰を殺しても、殺されても、裏切っても裏切られても少しも痛まなかったはずなのに。

父親が死んでから、空っぽになってたはずなのに。

痛む胸を押さえて駆けた。
逃げよう。きっと探していた子どもはあのキュ魔にやられたに違いない。オレでさえこんな状態なのだから。
ガサガサガサと後ろの方から音がした。慌てて振り向くとピンクの物体がこちらに向かってくる。
ヤられる!!(色んな意味で)
「くるなっ!!」
ホラー映画でよく聞くセリフを叫ぶが、そんなものヤンキー映画の「おぼえてろよっ!」若しくはAVの「らめー!!」ぐらい意味をなさない。
チッと舌打ちをしてスピードを上げるが、それでもキュ魔はそのスピードについてくる。
どんだけ獰猛なのだ、あのキュ魔は・・・っ!
このままでは追いつかれてしまう。
仕方ないと足を止め、クナイを持った。これでどれだけ応戦できるか分からない。一瞬のスキを狙おうと思った。
オレが止まるとキュ魔もピタッと止まった。
そしたまたもそりもそりと近づいてくる。
何だ・・・?
またあの破壊的笑みを見せるつもりか・・・っ!
警戒しながら、手を握りしめる。
キュ魔が目の前まで来ると、なぜか手を差し出した。
「・・・・・・は?」
よく見ると、手にはイチャパラが握られていた。慌てて服の中を見るとあるはずのイチャパラがなかった。
もしかして、落としたのだろうか。
それをわざわざ、オレに届けてくれたのだろうか・・・。
そっと手を差し出し、イチャパラに触れるとキュ魔は手を離した。
やはり、わざわざ届けてくれたらしい。
「あり、がと・・・」
するりとそんなセリフが出ると、キュ魔は頷いた。
つぶらな瞳がオレをうつす。

「がおっ」

そうしてにっこりと笑った。

オレは思った。


コイツ。
犯して孕ませて、オレのモノにしよ。




抱きしめると嫌がらず逆に嬉しそうにがおがお鳴いた。それが可愛くて、チュッチュとほほにキスする。
「がおっ」
ピンク色の毛並みも色のわりにはフワフワしている。毛深いと思えば悪くない。人外とか、獣姦とかそんなこと小さなことだと思う。
「ねぇ、名前なんて言うの?一人?喋れる?って言うかオレの言葉通じてる?」
抱き寄せながら聞くとつぶらな瞳がオレをうつして、蕩けるように笑う。
「がおっ」
んー。わかってなさそうだねぇ。
できれば意思疎通したいが、まぁいいか。
「可愛いねぇ、オレのクマちゃん」
魔のモノは魔の森からでては暮らしていけない。つまりこのキュ魔と暮らすにはここで住まなければならない。
べつにいいけど。でもここ家建てても平気だろうか。さすがに年中キャンプは嫌だな。
(野外プレイはマンネリ化してからしたいし・・・)
ムフッと思わず笑ってしまう。
でもハジメテが野外ってのもオツだよねぇ。せっかくだし。こんな出会いなのだから野外もいいだろう。それに最初からハードプレイだと他のマニアックなプレイも受け入れやすいし。
何よりちょっとムラムラしてきた。
「クマちゃん」
耳の方を触れるとくすぐったそうにした。その姿が火をつけた。
(オレのモノだし、イイよね?)
いずれ結ばれるのだし、時間の問題なら今でも構わないだろう。
チュッと唇にキスする。ぽってりとした唇は甘く舐めたり吸ったりすると益々膨れる様な気がした。ちゅぱ、ちゅぱと音を立てて吸うとキュ魔も息が上がっていく。
「キモチイイ?」
口から離してやると、困ったように眉を潜めながらこちらを見上げた。
その表情は加虐心を煽った。
(メッチャメチャにしてやりたい・・・っ!)
「クマちゃん・・・っ!」
その場で押し倒した。もう止められない。中に注ぎ込んで掻き回して喘がせたい。
勢いよく手を股の間にやる。

「・・・・・・・・・ん?」

違和感を感じ、股を見た。
そこには何もなかった。
いや、股はあった。ただまるで着ぐるみのようにただ毛に覆われた皮膚しかなかったのだ。

入れる穴がない!

とりあえず、正座した。
ギンギンだった息子さんもションボリと頭を垂れた。
これは、どうしたらいいのか。
(素股、か・・・)
ローションもないのに、中々厳しいな。
ならば口か。だが噛まれたらひとたまりもない。
途方に暮れ、キュ魔を見た。状況がわかってないのか相変わらずキラキラとした目でこちらを見上げている。
うん、可愛い。
こんなに可愛いのにオレは手を出せないのか。恐ろしいな。生殺しじゃないか。
はぁ、とため息をついた。
(・・・・・・しょうがない)

ぶっかけるか。






違う違う。
ちょっとおかしくなりかけた思考を戻す。たまにならいいが、オレは一生ぶっかけだけで終わるなんてゴメンだ。ぜったいこの生物を喘がしてやりたい!
「がおっ」
タイミングよく鳴き、なんとなくキュ魔もそう望んでいるような気がした。
「そうだよねぇ。クマちゃんもエッチしたいよねぇ」
「がおっ」
「うんうん。可愛いよ。オレが何とかしてあげるからね」
こうなったら、先生を脅して禁術の一つや二つしてもらおうか。万が一のために父親から受け継いだ脅迫のネタはある。
よし、そうしよう。
本来の目的も忘れ、キュ魔をつれてさっさと森から出た。


◇◇◇


「先生」
「カカシくん!見つかったかな?」
そう聞かれて本来の目的を思い出す。
そういえばそうだった。
だが、今はそんなことよりも大切なことがおるのだ。
「先生、オレ結婚したいヤツがいるんです」
そう言うと、先生は目を見開いだ。
「カ、カカシくん!!い、いいいきなりどうしたの?術?術にやられたの?」
「違います」
「だってカカシくん。結婚なんか人生の墓場だ、常識にとらわれた哀れな奴らだっていっつも言ってたじゃない」
「オレ、好きなヤツ見つけたんです」
そう言うと、驚いた顔をしたが、フッと優しい目で笑ってくれた。
「・・・・・・よかったね」
ぎゅっと抱きしめ、頭をなでてくれた。子ども扱いされているようで不愉快だったが、オレの気持ちが伝わってくれて、それを共感し喜んでもらえて嬉しかった。
「でも、ソイツちょっと特殊で・・・」
「何?もしかして人妻?どっかの国の姫?大丈夫だよ!可愛いカカシくんのためなら人の一人や二人、国の一つや二つ消してあげるから」
言ってることは怖いのに、ニコッととてもいい笑顔で宣言された。
先生は怖い人だけど、ここぞという時に心強い。これならきっと助けてくれる。
「先生・・・」
脅すなんて考えてゴメンナサイ。
これはもっと先にとっておきます。
「で、カカシくんの好きな子はどこ?どんな人?」
「コイツなんですけど」
そう言って暴れると困るので気絶させておぶっていたキュ魔を見せた。
「獣姦でいいんですけど、入れる穴がなくて。意思疎通もしたいし。先生、コイツ人間にできませんか?」
「こ、ここここれは!?」
先生はナワナワと震えている。
「えっと、キュ魔ですけど・・・」
気をつけろと言われて、守らなくて驚かれたかな?それとも(ネジが外れているような人だけど)魔のモノとの恋愛は異質だと思われたのだろうか。
「オレ、真剣です!コイツと生涯ともに生きていくつもりです!」

「ダメ!!」

いつにもなく真剣な表情で叫ぶと、オレからキュ魔を奪った。
「先生っ!」
そのまま、無言で懐から牛乳を取り出すとキュ魔の頭にぶっかけた。
白い液が、顔に、体にポタポタと垂れる。
「あぁ!!まだオレもしてないのに!」
「カカシくん、この子は諦めなさい」
白い液体をかけられたキュ魔は、いやらしく目を離せなかったが、その横で先生が怖い顔をしていた。
「何でですか!」
「この子はキュ魔じゃないよ。うみのイルカくん。行方不明の子どもだ」
え?と思っているとピンク色の毛皮は徐々になくなり肌になっていった。
それは正しく人間だった。
「人間、なの・・・?」
「キュ魔にクマになるよう術をかけられていたんだね。彼らの術をとくには牛乳をかけることなんだ。可哀想に、気絶させられて」
いや、それをしたのはオレです。
空気を読んで言わないけど。
キュ魔、もというみのイルカはすっかりとオレよりも小柄な人間となった。
えーっと、色々分かんないけど。
一件落着じゃない?
行方不明の子どもを見つけたし。
魔のモノではなく人間と付き合えるし。
先生に頼まなくてすんだし。
何より穴、できたし。
(オスか)
そこだけちょっぴり残念だったが、獣姦に比べたら小さい問題だ。
「じゃあこの子と結婚します」
持って帰ろうかと思ったら慌てて取り上げられた。
「ダメダメ!この子はダメなの」
「何でですか!」
「この子はうみのさんとこの息子なの!」
「さっき人の一人や二人消してくれるって言ってくれたじゃないですか!」
「うみのさんは国一つ消すより大変な人なのーっ!」
それでも何とか取り戻そうとするオレを押さえつけ、術まで使い離れ離れになった。
「イルカーー!!」



◇◇◇



「そういう訳で、付き合ってください」
「すみません意味がわかりませんが、とりあえず窓から入ってくるのやめてください。不法侵入ですよ」
「お礼に鳴いてくれるんでしょ?」
「鳴くじゃなくて歌うです!しかも歌うのはお嬢さんの方でしょう!?」
「じゃあイルカに愛を歌うよ」
「はぁ!?ちょっ、どこ触ってるんですか!?やめっ、あーーー!!」


あらくまさん ありがとう
おれいに うたいましょ
ららら ららららら
ららら ららららら